エメラルドデベロップメント倒産から見る海外不動産投資のリスク

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プーケットローカルニュースで恐縮なのですが、エメラルドデベロップメントという不動産デベロッパーが倒産をしました。

その会社の社長は詐欺容疑で逮捕。被害総額は23億バーツ(69億円)を超える見通しです。この事例を通して、海外不動産投資のリスクについて考えてみたいと思います。

事件の概要

エメラルドデベロップメントはプーケットを代表する不動産デベロッパー。2015年にはプーケットのベストコンドミニアム開発会社として賞を受賞するなど脚光を浴びてきました。また社長であるMai Sawit Ketroj(通称Khun Mai)はやりて若手社長として、様々なメディアに登場し『不動産業界のカウボーイ』として親しまれてきました。

 

そんなKhun Mai率いるエメラルドデベロップメント、戸建てや分譲コンドミニアムを建造すると資金を調達しましたが、完成後も物件の引き渡しを行わなかったことから詐欺罪で立件、今回プーケット空港で逮捕される流れになりました。

今回の事件は一般的に『ポンジースキーム』と呼ばれる手法だったのではないかとみて、警察は調査を続けています。

 

様々な切り口がありますが、海外不動産投資のリスクやなぜ多くの人が騙されたのか。そして、騙されないように何に気をつけなければならないのかを考えてみます。

 

海外不動産投資のリスク

海外不動産投資はリスクが高いものと考えている方も多いでしょう。

一面においてはその通りですが、一概にそうとも言い切れない部分もあります。

 

外国人が他国でで不動産を購入する、不動産を所持するためには現地の法律や慣習を知っておかなくてはなりません。

特に法律面に関して書いた記事がこちらです。 

 

簡単に言いますと、タイにおいては外国人はコンドミニアムしか所有できませんということ。

慣習において、とても重要なのが不動産開発・販売を進めていく順序・手順です。

東南アジアにおいてはこんな風に開発を進めていくことが一般的です。

  1. 計画を作成する
  2. 第一次販売を開始する
  3. その売上金から土地の取得や建設許可を進める
  4. 第二次販売を開始する
  5. その売上金で建設を進める
  6. 第三次販売を開始する
  7. 完成
  8. 第四次販売を開始する

1と3が同時で土地を取得してから第1次販売を行う会社もありますが、おおよそこんな流れだと思っていただければわかりやすいと思います。 

1や3で購入する人は8の段階でキャピタルゲインが発生します。15%や20%という数字もザラです。購入はしているけど物件完成まで所有せず、住むことも泊まることもないままに転売する。お金を転がしているだけで利ざやを稼ぐという形です。その一方で、計画が予定通り進むかどうかがわからないため、非常に大きなリスクを抱えることになります。

まさにハイリスクハイリターンの典型と言えます。

逆にリスクを最小限に抑えたいということであればもう建物ができ始めている6や8の段階で購入。キャピタルゲイン少々とインカムゲインを中心に見据えた購入方法です。

建設が進んでいて途中で止まるということはほとんどありませんので、ややローリスクローリターンと言えるでしょう。(もちろん完成間近で建設が止まる可能性は決してゼロではありませんが)

こういった商慣習を理解せずに一概に『海外不動産投資はリスクが高い』という話をするのは暴論です。

私の個人的な結論はリスクが高い投資もあるし、リスクが低い投資もあるということです。

今回なぜ多くの人が騙されたのか。

今回のエメラルドデベロップメントのケースで多くの人が騙されてしまったのは、実績がある地場のデベロッパーであること、土地所有や建設許可、EIA認可済みだったこと、一部利回りは達成していたこと。の3点なのだと思います。

なおこの3点目がポンジースキームだと疑われる理由のようです。ポンジースキームとは何かを含めて解説します。

地場のデベロッパーであること

ん?普通のことじゃないか?と思われるかもしれませんが、今プーケットは世界中のデベロッパーが集まり、分譲コンドミニアムやホテル、ショッピングモール開発を手がけています。私が聞いた中で最も珍しいケースではウズベキスタンのデベロッパーが分譲コンドミニアムの開発を行っていました。

その会社、話を聞いてみるとタイでの開発は初めてとのこと。本当にできるのか不安しか感じませんでした。

6年前の記事ですが、こちらをご覧ください。

ロシアンマフィアがプーケットで暗躍、警察と蜜月関係

ロシアンマフィアがリゾートなどを通して、マネーロンダリングをしているのではないかという記事です。嘘か本当かわかりませんが、あってもおかしくはなさそうです。

話を戻しますが、世界中のデベロッパーが集結しているプーケットではなんとなく地場のデベロッパーの方が安心できるような気がするのは事実です。

土地所有、建設許可、EIA認可済みであること

これらが全て取得できているかどうかを判断基準に置く人もいます。

土地所有や建設許可は説明するまでもないでしょう。EIAとはEnviromental Impact Assesment(環境影響評価)と呼ばれるものです。

原則論、ここまで取得するために非常に手間がかかるため、本気で開発をするんだなという意気込みを見ることは出来ます。

先ほどの開発・販売の流れでみましたが、これらを取得せずに販売を開始するケースも決して少なくありません。特にEIAはタイ独自のものであり、タイについてある程度知識がある人でないと気にしないため、取得の有無を言わずに販売を進め、実は取っていなかったため建設が始められないなんていうこともあります。

じゃあ、その3つを取得していれば安心なのかというと決してそういうわけではないことが今回のケースからわかります。

エメラルドデベロップメントは全ての開発計画においてEIAまで取得済みです。

今回の倒産がどこまで計画的なものかわかりませんが、建設を始めている段階ですら倒産するということはあり得ます。ですので、これらを取得しているからといって硬い案件であるとは言い難いです。

個人的には『これらを取得していることが最低限の基準である』程度のものと考えていいと思います。

一部利回りは達成していたこと

ここが1番騙されるポイントだったのだと思います。

プーケットの開発の多くは利回り保証制度が付いています。よく見るのは7%や8%を複数年保証します!という売り文句ですね。

物件を購入、そしてその物件への入居者をデベロッパーが行い、インカムゲインを保証するという形です。

個人的に嫌いな売り方です。その保証って何を持って、保証するのかがよくわかりません。むしろそんなことを言っている物件こそ怪しいと思います。

ともあれ、そういう形で販売している物件が非常に多く存在するということは、そのセールスに惹かれる人が多くいるということでしょう。

今回のエメラルドグループの開発の一つ、City Life Patongも購入金額の7%を5年間保証するという形で販売をしていました。そしてこれまで完成した物件においても同じような形を取っていました。事件が表ざたになるのが遅くなったのは、これまでの物件においてはその約束した利回りを達成していたからです。

しかし、建設費用がなくなったということから考えると、最近購入した人のお金を先に購入していた人への配当に回していた。ということが考えられます。

それが今回、疑われているポンジースキームという詐欺方法です。

ポンジースキームとは

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安愚楽牧場で使われた手法といえば、わかるかたも多いかもしれません。

『資産を集めて、運用する』という程でお金を集め、あとから集めたお金を先行者に配当として分配する手法です。

具体的に説明します。

  1. 私がAさんから100万円を預かり運用することで配当50%を約束します。
  2. その100万円は実際には運用しないまま、配当といって50万円返します。
  3. Aさんは実際に50万円手に入ったことで信用し、Bさんに紹介します。『50%も配当される素晴らしい投資案件があるんだ!一緒にやらないか』
  4. 私はBさんからも100万円預かります。同じように50万円をBさんに配当として渡します。
  5. Aさんは喜んでCさんを紹介し、BさんもDさんを紹介。
  6. CさんDさんから預かったお金を全員に配当として渡す。
  7. それを喜んだ4人はさらに多くの人を紹介。

という形で、どんどん拡散させ、預かり金のスケールを大きくします。

実際は何も運用していないので、いつか支払いが出来ずに破綻しますが、拡大し続ける限り、配当は渡し続ける事ができます。そしてある時、一切の配当を渡さずドロン。

これがポンジースキームと呼ばれる投資詐欺の手段で簡単な自転車操業的な詐欺の手口の一つです。

単純だから騙されないと思うかもしれません。

ただこれが『50億円運用しているスーパー投資商品。あの有名な投資家である誰々も出資していて、5年間の実績があります。運用残高に限りがあるので、今しか参加できません!』なんて煽られるとつい信用してしまう人もいるのではないでしょうか。

今回のケースでいえば、実際に建造物が出来ていたり、工事に着工していたりするので、純粋なポンジースキームではありませんが、自転車操業的な運用をしていたため、ポンジースキームなのではないかという疑いが掛かっています。

海外不動産投資で騙されないために

海外不動産投資に限らず、人に騙されないためには勉強・調査・裏どりしかないと思います。

第一に現地の事情をよく学ぶ必要があります。法律面や特殊事情をよくよく理解し、関係各社のリサーチ、物件の優位性など様々な点を考慮しなくてはいけません。

 

日本で不動産投資をしていて、自信がある方でもご注意ください。勝手異なる海外です。必要経費として複数の弁護士や複数の不動産業者を通じてデューデリを行うべきです。

投資をどう考えるかは人それぞれですが、一発逆転の大勝負という気持ちではなく、資産の分散を中心に考え、じっくりと考慮してリスクとリターンのバランスを取って投資すればそう簡単に騙される事はありません。

ある一定のハードルさえ越えられれば、充実した海外不動産投資生活が過ごせると思います。