てるみくらぶ騒動から見る日本式パッケージツアーの終わりの始まり
てるみくらぶ騒動
旅行会社『てるみくらぶ』は3月24日、一部の利用客に対し『航空券の発券システムにトラブルがあり発券ができない状態になっている』と連絡。一方的に事実上のキャンセル連絡をし、混乱が生じている。
一部報道によるとBSP清算(旅行会社と航空会社の清算)が滞ったためではないかと言われている。
第一報に対する感想
ついにやったかー。というのが正直な感想。
いつかどこかの旅行会社がやると思ってましたが、てるみくらぶはそれを最悪な形で出してきましたね。
騒動の原因
今回の騒動の原因は日本の旅行業界(そしてそれを取り巻く社会全体)にあると思います。それを論じるのは後に置いておいて、まずはてるみくらぶ個別の問題について。
何が起こったか。
これは非常にシンプルで、航空会社への支払いができなかったためです。
その結果、航空券が発券できず、お客さんが出発できなくなってしまったというわけです。
システムのトラブルと発表していますが、その場合、直接航空会社とやりとりすればいいだけの話です。発券端末の調子が悪くなることはたまにありますが、こんな大ごとには普通なりません。
考えられるのは支払いが滞ったため、発券ができなかったという単純な構図です。
じゃあ、これまで普通に営業していたのになぜ突然こんなことが起こるのか。
料金を踏み倒した人がいっぱいいたのか。誰かが社内で大金を横領したのか。
そういった可能性はありえなくはないと思いますが、普通に経営悪化が原因だと思います。
旅行代金をもらって、旅行を出すだけなのになぜ経営が悪化して、こんな自体が起こるのかというと主に支払い時期の問題です。
旅行者が旅行会社に料金を払うのは旅行を決めてから。
最初に旅行代金の一部を支払い、出発前に全額支払いというのが一般的。
じゃあ、旅行会社が航空会社やホテル、バスなどに支払うタイミングはいつかというと一般的に出発よりずっと前。
さらに問題になるのがクレジットカード。クレジットカード会社から旅行会社に支払われるのは大分先になります。そのため、まず旅行会社が立て替えて航空会社や現地へ支払わなくてはなりません。
1本1本なら大した問題ではありませんが、それが何百本となると1日1日の負債が大きくなりますね。
はっきり言えば自転車操業ですが、うまく回っていれば自転車操業であってもくるくると車輪は回り続けるはず。それがなぜ止まってしまったのか。
考えられる理由は世界的な業界の変化と日本のキャンセルポリシーの問題があると思います。
- 世界的な業界の変化と日本のキャンセルポリシーの問題
日本の旅行会社はほぼ一律のキャンセルポリシーです。
出発何日まえのキャンセルはいくら。というやつです。
これですごいなと思うのが、当日キャンセルで50%。出発後のキャンセルで100%というルールです。(募集型企画旅行の旅行業約款をご参照ください)
私、海外のランドオペレーターに勤めてましたけど、そんなの受けられませんよ。
それはあくまでも日本の旅行会社とお客様のお約束です。旅行会社と現地ランドオペレーターはそんな約束しませんし、出来ません。
ランドオペレーターとは
現地でのバスやホテル手配は日本の旅行会社が直接予約しているわけではありません。日本の旅行会社から現地のランドオペレーターに依頼があり、手配をします。
現地のオペレーターだからこそ特別な料金を出すことができ、安くパッケージを作ることができるのです。
私自身、日本の旅行会社さんと契約をし、パッケージツアーを作成し手配していました。
お客様が当日キャンセルされたという連絡が日本から来ても、うちは100%もらいますよ。だって、こっちでもう既にホテルに払ってるんだもん。
ホテルが返金してくれる?そんなことはありません。
日本のホテルのキャンセルポリシーって異常です。到着までキャンセル料無料とか。そんなの世界的に見てありえません。
そんなのを受けていたら、山ほど予約入れて直前に全部キャンセルされたらどうしようもないですよね。
それを死ぬほどやってるのが日本の旅行会社です。
日本の旅行会社の悪名は世界中に響き渡っています。もう予約を受けないなんてホテルも多くあります。大体はデポジットを予約段階で入れてもらい、キャンセルの場合はそれをキャンセル料として徴収します。
旅行のパンフレット見て不思議に思ったことありませんか?
『3月1日、8日、15日、22日、29日催行予定!』
今時、これが全部出発するなんてありません。大体1本か2本くらいしか出せません。
何本設定して何本出せるかというのを業界用語で催行率と言います。
業界的に言えば50%越えればヒットツアーといったところです。
結果この煽りを受けるのは、現地です。
例えば、2日前のキャンセルでお客さんから少ししかキャンセル料金をもらってないから、どうにか安くしてくれと言われます。そんなことを当日や2日前に言われても手遅れです。現地では現地のルールに則って取引しています。
その結果どうなるか。金払いの遅く渋い日本の旅行会社は切って、金払いのいい欧米や中国の旅行会社と取引すればいいんです。
彼らは出発の随分前にお客さんからお金を受け取っているので、ランドオペレーターへの支払いもスムーズ。そしてそこからホテルへの支払いもスムーズです。
ちょっと話が逸れました。
何を言いたいかというと以下の2点です。
- 海外ではキャンセルポリシーが年々厳しくなっている。
- 直前キャンセルにかかる料金はお客さんから回収できないため、旅行会社が支払う。
てるみくらぶの最悪なところ
話をてるみくらぶに戻しましょう。
今回はてるみくらぶの対応が最悪でした。
キャッシュフローを見ていれば、債務超過するXデー(3月23日)はあらかじめ分かっていたわけです。
いつ・いくら航空会社に支払うのか。
いつ・いくら現地に支払うのか。
直接費用はこの2点だけです。
この会社の経理は、もういつ債務超過するかはわかっていたはず。
それを発券できなくなった当日に利用客へ連絡するのは、最悪の対応です。
4年くらい前に『トラベル世界』が倒産した時は、早い段階で倒産手続きに入りお客様への返金などを進めていました。
この時はJATAの弁済業務保証金とボンド保証金で全額返金されました。
が、てるみくらぶはどうなるでしょうか。
今後の考えられる対応
てるみくらぶもJATA(日本旅行業協会)会員であり、弁済業務保証金があるでしょう。
これは取引額により決定しますので、てるみくらぶの保証金がいくらになるのかはわかりません。しかし、今回の騒動のスケールから言って、全員が全額返金されるとは考えにくいです。
どうにかして分配を考えなければなりませんが、どうやっても問題になりますね。
考えられる分配方法
1.迷惑のかかった順に返金をする。
出発中で帰りの便がなくなった人。
当日キャンセルになった人。2日前キャンセルになった人。
順番に返金してお金がなくなったらそこで終わり。
この場合、4ヶ月後に100万円入れていた人は丸損になります。
納得はできないですね。
2.一律パーセンテージで返金する。
旅行代金の一定パーセンテージを返金する。
5万円の旅行であっても100万円の旅行であっても同じ率で返金されます。
この場合、あまりにも被害者数が多い場合、3%とかになってしまう可能性があります。
これも納得はできないですね。
観光庁や消費者庁が介入するとは思いますが、一企業の倒産に対して国が補償することはありえませんので、絶対的に問題が発生するのが目に見えています。
さてどう落とし込むのか。
- 追記:記者会見を受けて
お客様への負債総額約99億円に対してJATAの弁済保証金が1億2千万円。
これから破産管財人が内部をチェックして、補填できれば追加されるが、今の見通しだと99億に対して1億2千万円を返金する形になる。
約1%の返金になるかもしれないそうです。
日本式パッケージツアーの終わりの始まり
日本の旅行会社、パッケージツアーは他国の常識と乖離してガラパゴス化しています。
今回のてるみくらぶ騒動はその歪みから生まれたものであると思います。
じゃあ、再発を防ぐために世界的な常識に合わせるかというとそう簡単な話ではありません。
これは日本人の余暇の過ごし方の捉え方の問題でもあるからです。
欧米や中国の人たちは随分早い段階で旅行を申し込み、予定をそこに合わせて組みます。その一方、日本人は直前になって仕事の様子をみて予定を考えます。
これは働き方・休暇の捉え方の違いから生まれるものです。
休暇のために仕事をするのか。仕事の合間に休暇を取るのか。
日本人は圧倒的に後者ですね。
だから、予定が確定する直前まで旅行代金は払いたくないですし、キャンセル料も払いたくないのです。
今現在、日本の旅行会社のプレゼンスはどんどん薄くなっています。
それと共に、ホテルや航空券の特別料金はなくなってきています。
そうなってくると、ツアーに参加するメリットはなくなっていき、個人旅行へとシフトしていきます。
日本式パッケージツアーの終わりの始まりです。
- 追記:twitterやブコメでbooking.comやexpediaはキャンセル料かからないよ。というコメントを拝見しました。
これは個人客とツアー客の違いです。
ツアーの予約の場合、設定が5本、1本につき20部屋3泊、計300泊予約するから安くしてね。という予約をします。その代わりホテル側は旅行会社にちゃんと300泊担保してねとお願いします。
なので、OTAなどと違ったキャンセル料金が適応されます。
関連した記事を書きました。よかったらこちらもどうぞ。